犬にキシリトールは危険
先日、ネット上で、1歳に満たない犬が
「キシリトール入りのタブレット」を食べて急死した出来事が報告されました。
確かに、キシリトールは犬に肝障害などを引き起こすため、
ネギ類同様、食べさせない方がいいものの一つです。
今回の出来事で、ネットユーザーのなかには
「ネギは知っていたけど、キシリトールのことは知らなかった」
という方が多くいらっしゃったそうです。
ですから、できるだけ多くの方に
犬にキシリトールは危険!
と、「このような事故が再び起きないように」と注意を促すことは
大変重要なことと思います。
ですので、ぜひ、あなたの周りの方に、そのことを教えて下さい。
「量」が重要
ところで、一般的に…
「この物質が毒か薬か、毒にも薬にもならないか…?」
これは、ひとえに「量」が重要となってきます。
私たち獣医師が大学時代に学ぶ講義の中に
「毒性学」
という学問がございまして、
この毒性学の祖Paracelsus[パラケルスス]氏曰く
===
“All substances are poisons :
There is none which is not a poison.
The right dose differentiates a poison and a remedy.”
全ての物質は毒であり、毒でないものは存在しない。
ただ適切な容量が毒と薬を区別する
===
という記述がございます。
この表記からおわかりの通り、
「その物質が入っているからといってこの食材は毒だ!危険だ!」
という解釈・姿勢は「間違い」で、
常に「その量が急性毒性につながる量か?」
「微量なら、蓄積して慢性毒性をもつか?」
がポイントとなります。
見極めが出来ないと…
このあたりの見極めが出来ないと
「犬にキシリトールは量によっては有害です」←事実
↓
「イチゴやレタスにはキシリトールが入っております」←事実
↓
「だから、イチゴやレタスを食べるのは注意が必要です」←言い過ぎ
↓
「このことから、人間の食べ物を犬に食べさせるのは危険です」←えっ?
ということになってしまいがちです。
一般の飼い主さんが「適切な判断」ができるだけの「十分な知識」
をお持ちでないのは仕方ありません。
「毒か薬かは量が決める」ことをご存じなければ、
今回の様な出来事が起これば、
「犬にキシリトールはいかなる量でも有害!」
と思ってしまうのは仕方ないことです。
でも、
「その心配はないですよ。
だって、
去年まで毎年何年も『愛犬と行くイチゴ狩りツアー』に行って何ともなかったでしょ?
イチゴにキシリトールは含まれているかもしれませんが、
キシリトール中毒になる量は含まれておりませんから、
そんなことにはならなかったし、これからも『なれない』のです。
入っていることと、それで健康を損ねることの区別がつけば、そんな心配はいらないでしょ?
理論的にも、現実的にも、関係ないとご理解いただけましたでしょうか?
では、質問です。ケーキの上に乗ったイチゴを
飼い主さんが目を離した隙に愛犬に食べられた…
飼い主さんとしてどう対処しますか?…
そうですね、今まで通り食べさせていいわけです。
もし『イチゴは危険だ!』とおっしゃる方がいたら、
『なぜですか?』と質問してみてください。
たぶん、明確な根拠無しに、
良かれと思って、慌てて記事を書かれただけだと思います。
ですから、特に悪意があってのメッセージではないので、
その方を攻撃したりもしないでくださいね。」
と冷静に伝えられたら、
飼い主さんも気持ちよくキチンと線引きが出来るのではないでしょうか?
つまり、
「キシリトールタブレットの様な、工場で作られるものは要注意!」
「畑で作られる野菜や果物に含まれる量は微量なので大丈夫」
ということです。
ましてや、「人の食べ物は危険だ!」は、
冷静さを欠くご意見かと思います。
(このことを急いで伝えたくて、
慌てて書いたから、その様な表現になったのだとは思いますが…。」
もちろん、
残留農薬の影響を受ける可能性はゼロではありませんが、
それはキシリトールとは関係ない話ですし、
そんなことまで可能性の中に入れたら、何も食べられなくなりますね。
フードファディズム(food faddism)という言葉があります。
食べ物に含まれる成分で健康になるとか、
その逆で病気になるという効果を
過度に信じ、偏狭的で異常な食行動を取ること
を表現した言葉です。
今回のケースが、
必要な情報
「犬にキシリトールは量によっては有害なことがある」
(※この「量によっては」が大事!)
の拡散に役立てば良いのですが、
「キシリトールを含むイチゴやレタスも危険」
という「間違った情報」が広がって、
不必要な心配をする飼い主さんが増えないことを願っております。
情報は、正確に把握して、
不必要な心配を拡散しない様に心がけたいものです。