オメガ3脂肪酸の腎臓保護作用と犬の慢性腎臓病(CKD)への推奨量

オメガ3脂肪酸の腎臓保護作用と犬の慢性腎臓病(CKD)への推奨量

泌尿器系(腎・膀胱)

慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)


慢性腎臓病の犬にフィッシュオイルは有効ですか?

●飼い主さんからのご質問

慢性腎臓病(CKD)の犬にフィッシュオイルは与えてもいいでしょうか?

与えた方がいいのか?与えても与えなくてもいいのか?どちらでしょうか?

また、与えるならどれくらいの量が「目安」になりますか?

●科学的根拠に基づくアドバイス

フィッシュオイルには腎臓保護作用があるという実験結果があります。

具体的には、慢性腎臓病の犬にオメガ3脂肪酸を多く含む食事をさせたところ、1)タンパク尿の減少、2)糸球体高血圧の予防、3)炎症を促進するエイコサノイドの産生減少が認められ、腎臓保護効果が期待できるという実験報告でした。

推奨量はオメガ3脂肪酸を食事の乾燥重量ベースで0.4%〜2.5%含む食事という報告があります。

慢性腎臓病(CKD)の犬にオメガ3脂肪酸を与えたときの変化

実験的に慢性腎臓病(CKD)を発症させた犬において、長鎖型オメガ3脂肪酸(LC-PUFA)を与えると、以下のような効果が確認されました:

●尿中たんぱく質量(タンパク尿)の減少

●糸球体高血圧(腎臓の毛細血管にかかる圧力)の予防

●炎症を促進するエイコサノイド(プロスタグランジンなど)の産生の減少【1、2】

実験グループ

この研究では、21頭の犬に対して腎臓の15/16を外科的に切除する処置(部分腎摘除)を行い、その後以下の3つの食事グループに分けて20か月間観察しました:

●フィッシュオイルを主な脂肪源としたグループ

●サフラワー油(リノール酸=オメガ6が豊富)を主な脂肪源としたグループ

●牛脂を主な脂肪源としたグループ

食事に含まれる総脂肪量はすべて16.8%で統一されており、フィッシュオイル・グループの食事にはEPAが2.28%、DHAが2.1%含まれていました。

これは、体重の代謝量換算(BW^0.75)で約760 mg/kg BWに相当し、NRC(米国学術会議)が定めた安全な上限値の2倍以上です。

オメガ3脂肪酸には腎機能を守る効果がある

結果として、サフラワー油を与えた犬では、糸球体(腎臓のろ過装置)の拡大や糸球体毛細血管の平均圧力が上昇しており、フィッシュオイルや牛脂を与えたグループよりも悪化していました。

一方、フィッシュオイルを与えたグループでは、クレアチニン(老廃物)の排出効率が最も高く、尿中のたんぱく質とクレアチニンの比率も最も低いという良好な結果が得られました。

また、糸球体の間質部分の広がり(メサンギウムの拡張)や硬化(糸球体硬化症)、腎臓の間質における炎症性細胞の浸潤については、牛脂グループとサフラワー油グループは同程度であったのに対し、フィッシュオイル・グループではこれらの悪化が明らかに抑えられていました。

生存率に関しては、フィッシュオイル・グループと牛脂グループは同程度でしたが、サフラワー油グループでは7頭中4頭が安楽死を余儀なくされました【1】。

さらにこの方法を使った別の研究でも、オメガ3脂肪酸または抗酸化物質を与えることで、腎臓を守る効果(腎保護作用)があることが示されています【3】。

オメガ3脂肪酸の犬のCKDへの推奨量

犬の慢性腎臓病(CKD)に対するオメガ3脂肪酸の最適な食事量は、まだはっきりと確立されていませんが、ある研究では食事の乾物(DM: Dry Matter)換算で0.41%〜4.71%の範囲で使用されました。

たとえば、オメガ6とオメガ3の比率が5:1で、オメガ3脂肪酸の含有率が0.41%(DM)であった場合でも、糸球体の高血圧や炎症性エイコサノイドの減少が観察されました。

また、ある研究では、CKDを患う犬には、オメガ3脂肪酸を食事の乾燥重量ベースで0.4%〜2.5%含む食事が推奨されています【4】。

ただし、この中で上限にあたる2.5%(DM)という値は、食事の乾燥重量で換算すると約22.5g/kg DMとなり、NRCが定める犬の安全な上限(11g/kg DM)を超えていることに注意が必要です【5】。

そのため、この最大量の使用には慎重を要し、特に長期使用時にはさらに評価が必要とされています。

一方、0.41%(DM)のフィッシュオイルを含む食事は比較的安全とされており、これは10kgの犬であれば、体重の代謝換算(BW^0.75)すると、おおよそ130〜140mgのEPA+DHAに相当します。

このように、オメガ3脂肪酸を摂取することで、【 慢性腎臓病の犬に対して腎臓保護効果が期待できる 】可能性があることを知識として共有できれば幸いです。

犬の慢性腎臓病はフィッシュオイル(オメガ3脂肪酸)で万事解決!とはならない

もちろん、科学の大前提である

条件が変われば結果が変わる

反応には個体差がある

万能の正解など存在しない

最終的には個々で確かめながら最適化していくしかない

ことは変わらないので、【 慢性腎臓病を患う犬の問題は、オメガ3脂肪酸を含むフィッシュオイルで万事解決! 】ということにはならないことも、確認しておきたいところです。

でも、身近な栄養素に【 慢性腎臓病の犬に対して腎臓を保護する効果 】が期待できる可能性があることは、ありがたいことですよね。

参考文献

1) Brown SA, Brown CA, Crowell WA, et al. Beneficial effects of chronic administration of dietary omega-3 polyunsaturated fatty acids in dogs with renal insufficiency. J Clin Lab Med 1998;131:447–455.

2) Brown SA, Brown CA, Crowell WA, et al. Effects of dietary poly-unsaturated fatty acid supplementation in early renal insufficiency in dogs. J Lab Clin Med 2000;135:275–286.

3) Brown SA. Oxidative stress and chronic kidney disease. Vet Clin North Am Small Anim Pract 2008;38:157–166.

4) Forrester DS, Adams LG, Allen TA. Chronic kidney disease. In: Hand MS, Thatcher CD, Remillard RL, et al, eds. Small animal clinical nutrition, 5th ed. Topeka, Kan: Mark Morris Institute, 2010;765–800.

5) National Research Council. Nutrient requirements and dietary nutrient concentrations. In: Nutrient requirements of dogs and cats. Washington, DC: National Academy Press, 2006;359.

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